最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)226号 判決 1961年5月26日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人大原信一、同和田栄一の上告理由第一、二点ならびに同第四点について。
論旨は、いずれも原審が適法にした証拠の取捨、判断、事実認定を非難するか、或は原審の事実認定に誤あることを前提ととして原判決の判断を攻撃するものに帰着し、上告の理由として採用することはできない。
同第三点について。
本件第一審において、上告人(原告)は、被上告人(被告)に対し、公示送達の申立をし、同審においてこれが許容されて、公示送達の方法により、被上告人不出頭のまま審理のうえ、判決言渡があり、その判決正本の送達もまた公示送達によつて昭和二九年一二月二七日なされたことは記録上あきらかである。そして被上告人は本件訴訟の提起されたことも、その第一審判決言渡のあつたことも、その当時全く知らず、右判決の執行力ある正本に基き被上告人所有の自動車について強制執行手続がなされ、その競売期日が指定された後、昭和三〇年六月一〇日にいたつて初めてその事実を知り、直ちに判決正本を受領したうえ、同月一六日原審裁判所に控訴申立の手続をとつたものであることは原判決の確定するところである。また、本件公示送達は、被上告人に対して民訴一七五条の規定による外国においてなすべき送達が不能のために、被上告人の最後の住所地を管轄する東京地方裁判所においてなされたものであつて、被上告人の現住地を管轄する裁判所でなされたものでないことは記録上明白である。
以上の場合、特段の事情のみとめられない本件において、原審が、被上告人はその責に帰すべからざる事由によつて控訴期間を遵守することができなかつたものとしてその追完を許容し、被上告人の本件控訴を適法であると判示したことは正当である。論旨は、この点に関し被上告人の代理人の過失を云為するけれども、右は原審において上告人の主張しなかつたところであつて、かかる事実の存在を前提として、前示原判決の判断を非難する論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)